研究室訪問

ナノ・スピン実験施設

半導体スピントロニクス(大野)研究室

スピン機能工学研究部 教授 大野 英男
助教 山ノ内 路彦

http://www.ohno.riec.tohoku.ac.jp/

半導体スピントロニクス

図1

図1 化合物半導体GaAsを構成する元素の一部をMnイオンで置換すると、磁性スピンとキャリアが半導体に導入されて、強磁性半導体になります。

 1996年に私たちのグループが創成した強磁性半導体(Ga,Mn)Asを報告して以来(図1)、強磁性半導体を用いたスピントロニクスの研究展開は著しく、世界各国で多くの強磁性半導体の材料・素子の研究開発が行われています。

 私たちの研究グループは世界の研究を先導してきており、これまでに(Ga,Mn)Asをスピン注入源とした非磁性半導体中へのスピン偏極電流注入とその光学的検出、(Ga,Mn)Asをエミッタとした共鳴トンネルダイオードのトンネル分光法による価電子帯のスピン分裂の観測、(Ga,Mn)As/GaAs/(Ga,Mn)As 磁気トンネル接合(MTJ)における高いトンネル磁気抵抗(TMR)比の観測、強磁性半導体におけるスピン流を用いた磁化反転、磁性および磁気的性質(キュリー温度、磁気異方性)の電界制御、磁壁移動などの実証が行われています。特に電界で磁性を制御する一連の成果(Nature 2000, 2008, Science 2003)は、室温で動作する強磁性金属を用いた素子にも応用され始めています。最近では、電界によって界面磁気異方性を変調することにより、垂直磁化容易軸をもつ直径70nmの強磁性金属素子において室温でナノ秒の磁化反転を報告しました。電界による磁化反転により極めて低い消費電力で動作する不揮発性スピントロニクス素子を実現することができます。非磁性半導体ではスピン注入の他、コヒーレンス時間の長い核スピンを制御する試みやスピン軌道相互作用を利用する研究も続けています。半導体を対象としたスピントロニクス研究は、転移温度の高温化や他の半導体材料への展開が試みられており、ここで明らかにされた新しい概念やデバイスコンセプトは材料の違いを超えて多くの分野に波及効果を及ぼしつつあります。

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