巻頭特集1-1/所長就任の挨拶

 コミュニケーションは社会の基盤です。電気通信は、コミュニケーションを支えて情報通信へと変貌を遂げ、人と人とをむすび、さらに社会活動の基盤となって私たちの生活に不可欠なものとなりました。

 情報通信、さらにはコミュニケーションの科学と技術の研究を進めている電気通信研究所には、次の2点が期待されていると考えています。すなわち、現在の情報通信をより高速・大容量・省エネルギーでかつ安全また大災害時にも安心に使えるものにすること、さらには現在の情報通信の限界を超えた高次の情報処理やコミュニケーションを実現するパラダイムを創生し新たな産業と社会の実現に貢献することです。

 大学の附置研究所は、構成員の自由な発想をもとに多様な研究を推進し、併せて研究を通して学生や社会人の教育を行っていく点で、企業や独立行政法人の研究所と相補的な存在です。新たなパラダイムを創生するなど、道がないところに新たな道を造っていく場合には、自由な発想に基づく質の高い研究、すなわち大学の附置研究所らしい研究が大きな貢献をすることが期待されます。

 電気通信研究所は、八木・宇田アンテナやマグネトロンなどの先駆的研究を受けて1935年に設立されました。以来、今日の情報通信の基盤となる多くの研究成果を挙げ、世界をリードする伝統を築いてきました。今後とも、構成員が活躍して世界的研究成果を出していくのみならず、未来の構成員達がさらに期待に応える成果を積み上げていくことができるようにするのが、この伝統を引き継ぐことであると考えています。

 教員の研究活動は、多くの外部資金により支えられています。科学研究費補助金をはじめ、文部科学省からの研究委託事業や日本学術振興会、科学技術振興機構からの各種事業、産学連携活動事業など多様です。電気通信研究所では、これらの外部資金の総額が研究所の収入の50%を超える年間25億円近くで推移しており、教員一人あたりの額としても大きなものとなっています。これは、本研究所が日本における情報通信関連研究の先導的研究拠点としての役割を果たしていることを裏付けるものです。

 電気通信研究所を中核とした大きな研究開発プロジェクトのいくつかは別組織で推進されています。2010年3月には電気通信研究所の教員が中心となった「省エネルギー・スピントロニクス集積化システムセンター」が、学内の別組織として設置されました。内閣府の最先端研究開発支援プログラムの下、世界をリードする省エネルギー論理集積回路の研究開発が産学官連携で進められています。2011年10月には、東日本大震災を受けて、電気通信研究所の主導により「電気通信研究機構」が同じく学内の別組織として設置されました。東北大学災害復興新生研究機構で進められている8プロジェクトの一つとして、災害に強い情報通信ネットワークの構築のための研究開発が産学官連携の下に推進されています。2012年10月に学内組織として設置された「国際集積エレクトロニクス研究開発センター」においても電気通信研究所の教員が大きな役割を担っています。

 このように、情報通信やコミュニケーションに関わる多くの研究活動を新たに開始し、強力に推進する活力を、研究所は維持し発展させていかなくてはなりません。

 社会からの要請に応えて多岐にわたる高い質の研究を進めるには、体制、規模、人員構成や環境が重要となります。平成16年度以来研究所は、材料と情報の基礎科学から、情報を生成・認識・伝送・蓄積・処理・制御するためのデバイス、回路、アーキテクチャー、ソフトウェアまでを一体のシステムとしてとらえた研究を所内外の研究者との有機的連携のもとに進めてきています。連携の根幹には、本学の電気情報系との密接な協力関係があります。さらに文部科学省から情報通信共同研究拠点として、共同利用・共同研究拠点の認定を受けて、外部研究者と進める共同プロジェクト研究により、コミュニティの意向を反映しつつ外部と連携した研究を進めています。環境に関しては、本号で鈴木教授が紹介していますように、研究所2号館北側に新棟の建設が決まりました。新たな環境で多くの皆様と研究を進められるのは大きな喜びです。

 他方、大学法人の基盤的経費である運営費交付金は毎年削減されてきており、本研究所も構成員数が漸減しています。研究所がカバーすべき研究分野に見合った規模を維持し、一層研究所を発展させていくためには、優先順位をよりはっきりさせるとともに、構成員の研究活動をさらに活発にして、研究費に伴う間接経費や文部科学省に経費を要求できる特別経費などで、研究所をダイナミックに運営していくことが重要になります。加えて構成員を女性や外国人を含めた多様性のあるものとすることも、今後の研究所の発展には欠かせません。また、自由な発想に見合う十分な成果が得られているか、点検と検証を継続的に行うことが求められます。これに関しては、外部の目から研究所の活動や研究成果を評価頂く外部評価を本年度実施し、その結果を運営に役立てることとしています。

 今後とも電気通信研究所から、情報通信、コミュニケーションの発展に貢献する研究成果が出続けるように構成員と共に努力を重ねて参ります。皆様からのご指導ご鞭撻、忌憚のないご意見をお願い申し上げ、就任のご挨拶とさせて頂きます。

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