文部科学省 国家課題対応型開発推進事業『耐災害性に優れた安心・安全社会のためのスピントロニクス材料・デバイス基盤技術の研究開発』

 現在のコンピューティングシステムでは、SRAMやDRAMなどの半導体ワーキングメモリが揮発性であるために、災害などによって電源が途絶すると、ワーキングメモリに保存されていた情報が消失し、結果として電源が復旧した後もシステムの復旧までに非常に長い時間を要することになります。また、これまで半導体ベースのワーキングメモリは、デバイスを小さくすることで高性能化を実現して来ましたが、半導体技術世代20nm以降は、小さくすること自体が困難であり、また小さくしても性能を上げられないという問題が生じることが予測されています。更に、半導体技術世代が進むにつれて、放射線によるソフトエラーがより深刻な問題となることが予測されており、微細世代では耐環境性も課題となります。以上のような諸課題を解決するには、耐環境性に優れた高性能・低消費電力な不揮発性ワーキングメモリを20nm以下の半導体技術世代において実現することが必要になります。現在知られている不揮発性メモリで、ワーキングメモリに必須の特性である書換回数に制限がないものは、スピントロニクス素子だけです。そのスピントロニクス素子を用いてワーキングメモリを不揮発化することで、システム全体の消費電力が削減され、停電時のバックアップ電源によるシステムの長時間維持とデータ処理能力の向上が期待されます。また、処理情報・動作のためのデータを不揮発ワーキングメモリに保持できるために、停電から復旧した際にデータを再ロードする必要がないシステムの構築が期待されます。更には、情報を磁化方向で保存するスピントロニクス素子では、半導体ベースのワーキングメモリに比べて良好な耐放射線性能が期待され、微細世代においても高い耐環境性を実現できると期待されます。つまり、微細スピントロニクス素子を用いた不揮発ワーキングメモリとその適用法を開発することにより、耐災害性に優れたコンピューティングシステムの実現が期待されます。標記の委託研究は、このような耐災害性を有するコンピューティングシステムの基盤技術を開発することを目的に、平成24年から28年までの5ヵ年の計画で、20nm以下の半導体技術世代においてスピントロニクス素子を用いた大容量ワーキングメモリ(DRAM代替)と高性能ワーキングメモリ(SRAM代替)のための材料・デバイス技術の研究開発、並びにシミュレーションを用いたそのコンピューティングシステムへの適用法に関する研究開発を推進しています。本委託研究を効率的に進めるために、本学からは遠藤教授(工学研究科、国際集積エレクトロニクス研究開発センター)、羽生教授(電気通信研究所、国際集積エレクトロニクス研究開発センター)、安藤教授(工学研究科)、また、各研究開発項目に関する国内のエキスパートとして宇宙航空研究開発機構、京都大学、山形大学、物質・材料研究機構、日本電気が参画しています。加えて、微細スピントロニクス素子の研究開発を行うにあたり、新たに必要となる材料・デバイスの評価装置およびその周辺装置の開発を行うために地元企業である東栄科学産業が参画しています。 以下、本委託研究で推進している4項目の研究開発の概要を述べます。

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