所長就任挨拶

 「人間性豊かなコミュニケーションの実現」が、電気通信研究所のミッションです。コミュニケーションが人間社会にとって持つ意味は計り知れません。情報通信技術は、コミュニケーションのあり方を大きく変え、人間の持つ限界を超えた情報交換を実現してきました。現代におけるコミュニケーション、情報通信は、人と人から人とモノ、モノとモノとその対象を広げ、また空間的時間的限界を超え拡張し続けています。本所は、さらにその先にある豊かな情報社会の実現を目指し、我が国の学術と社会の繁栄に、また広く人類社会の福祉に貢献することを目的としています。この目的を念頭に、所長としての責務を果したいと考えています。

 本研究所は設立以来情報通信分野の研究を牽引してきました。その活動を維持し、発展させることで、豊かな情報社会の実現に貢献を続けることが本所の課題です。そのためには、その時々の社会課題の解決に直結する研究を推進すること、将来に向けた基盤的あるいは萌芽的研究が可能な環境を維持することが必要と考えています。大学を取り巻く環境の変化に対応しつつ、これを実現するためには、所内外の研究者の連携、国際連携の推進、専門家から一般の方まで、また地域から世界に向けた研究成果の広報、多様性の確保などの課題に取り組む所存です。

 本所は1935年の設置以来、磁気記録や半導体・光通信をはじめとした現代の情報通信の基盤をなす研究成果を挙げ、世界をリードしてきました。これらの実績の上に、情報通信分野での研究拠点として活動を継続し、現在も豊かな情報社会を作るために成果を積み上げています。研究推進のために、材料、デバイス、通信方式、ネットワーク、人間情報、ソフトウェアなど広く関連研究分野に研究室を配し、ハードウェア技術とソフトウェア技術の融合、他機関との連携による文理連携など、研究者間の有機的連携も実現できる体制を組織しています。特に研究者間の連携は人件費削減の中にあって、情報通信研究の主要分野に加え将来の発展を見据えた分野で世界を牽引するために重要です。

 1994年には、「高密度及び高次の情報通信に関する学理並びにその応用の研究」を行う全国共同利用研究所への転換が認められ、その後制度変更に伴い、2010年に文部科学省から情報通信共同研究拠点として共同利用・共同研究拠点の認定を受けました。拠点として、他機関との連携のもと情報通信、コミュニケーション科学技術研究を牽引する役割を担った活動を継続しています。その主要な活動として、外部の研究者と進める共同プロジェクト研究を実施しています。国公私立大学や民間の企業などの研究者との連携を推進するこの事業は多くの成果に繋がり、第2期の拠点事業の評価において最高の評価を受けて認定が更新され、2016年度から第3期の事業を進めています。共同プロジェクト研究による連携事業のさらなる拡張のために、現在、国際化、若手支援、産学連携に対する重点支援を実施しています。その効果もあり、数年にわたりプロジェクト件数、参画者が増加を続けています。本年度も130 を超えるプロジェクトと1300名を超える参画者を得ることができ、国際的な展開や若手研究者主導プロジェクト、産業界との連携など一層の推進を予定しています。

 現在進行中の所内の連携のプロジェクトとしては、2014年度から国の特別経費の支援により進めている「人間的判断の実現に向けた新概念脳型LSI創出事業」があります。この事業は、電脳世界と実世界をシームレスに融合する次世代情報システムの実現に向けて、五感情報処理や意思決定など人間の機能を取り入れた新概念脳型LSIを開発することが目的で、本所の目標でもある「材料と情報の基礎科学から、情報を生成・認識・伝送・蓄積・処理・制御するためのデバイス、回路、アーキテクチャー、ソフトウェアまでを一体化システムとしてとらえる」に合致したものです。情報通信に関わる広い分野の連携によって実現できるプロジェクトです。

 その他、本所がその設立に深く関わった東北大学情報通信研究機構の中核組織として、復興・新生に貢献する社会実装をめざした先端ICT研究を学術コミュニティならびに産業界とともに推進しています。東北大学が目指す「復興・新生の先導」を情報通信研究分野において実践し、災害に強い情報通信ネットワークの実現の成果を挙げています。また、復興庁指定の復興新生事業であり国内外産学連携研究開発組織である東北大学国際集積エレクトロニクス研究開発センターにおいて、中核機関として活動を続けています。2016 年度からは、本所も提案に参画し、採択された産学競争プラットフォーム共同研究推進プログラム「世界の知を呼び込むIT・輸送システム融合型エレクトロニクス技術の創出」の活動にも貢献を続けています。その他、4大学(東北大学、東京大学、大阪大学、慶應義塾大学)を拠点とする大学間連携事業が概算要求で認められ、全学組織「スピントロニクス学術連携研究教育センター」が2016年度に設置され活動を推進していますが、これは共同プロジェクト研究から発展したものです。スピントロニクスはまた、2017年に東北大学の指定国立大学として認定された際の将来構想の中で、4つの世界トップレベルの研究拠点の1つとして位置づけられ、さらなる発展が期待されています。

 今後とも、情報通信に関する科学技術研究の拠点として、本所に課せられたミッションを果たすべく、社会におけるコミュニケーション科学技術の発展に貢献する努力を重ねて参ります。皆様からのご指導ご鞭撻、忌憚のないご意見をお願い申し上げ、就任のご挨拶とさせて頂きます。

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