所長就任挨拶

 4月1日に第22代の東北大学総長に就任しました。工学部電子工学科教授として着任したのが1994年、研究室はその時から電気通信研究所にありましたので、24年の長きにわたって電気通信研究所にお世話になりました。加えて、電気・情報系の皆様をはじめ、ご関係の多くの方々に大変お世話になりました。ここに深く御礼を申し上げます。

 さて、この3月まで5年間所長を務めましたので、電気通信研究所(通研)のことから書き起こします。通研は1935年に設置され、本年で83年を迎えます。電気工学科における研究成果が設置の契機となりました。八木・宇田アンテナ、岡部先生の分割陽極マグネトロンなどです。この時期には、斎藤報恩会から多額の研究費の援助をいただいています。1907年に建学された本学自身も、古河家と宮城県からの寄附が建学の際に大きな役割を果たしました。社会からの期待と支援があったからこそ、ここまで来られたのだと感じないわけにはいきません。その後通研は、永井先生の交流バイアス、西澤先生の光通信の3要素、岩崎先生の垂直磁気記録など、現代社会の礎を築く成果をあげています。また、フラッシュメモリの舛岡先生を始めとする人材が巣立ちました。ハードディスク、フラッシュメモリ、光通信、つまり今日の社会の基盤には、通研の貢献があると言って過言ではありません。「研究第一主義」とは、一流の研究をする過程で一流の人材を育てるという意味です。まさしくこれを実践してきたといえましょう。

 通研50周年記念式典で、当時の西澤潤一所長は、「学問というものはまだ名前がつかないうちに始めるようでなければいけない、東北大学電気通信研究所および電気系全体として、これをもって精神の基礎となす」と挨拶しています。このように、高いスタンダードを求められることこそが、通研をはじめとする東北大学の伝統の重みであり誇りです。

 一方、「歴史ある伝統は常に若し」です。時代は降り、私たちの環境は大きく変化しました。グローバル化、少子高齢化、エネルギー問題、人工知能やロボットが中心となる第4 次産業革命の進展、ますます不透明になる国際情勢、このような中で東北大学はどのような役割を果たすべきでしょうか。総合研究大学である本学には、社会の変化に追従するのではなく、世界最高水準の研究を基盤に社会と関わり、未来を拓く変革を先導することが求められていると考えています。東北大学は、まさに、「創造と変革を先導する大学」であるべきですし、そのために総長として力を尽くします。

 本学にとって、大学に閉じない、社会との広範な連携は、ますます重要性が高まっています。例えば産学連携は、大学がイノベーションに貢献するための主要な活動ですが、いま、大学がコミットする「組織対組織」型の大型共同研究を増やす取り組みを進めています。このタイプは分野を横断し、複数部局の研究室が参画して、企業ないしは企業群と連携するものです。これにより取り組みの社会に対するインパクトは一段と大きくなります。本学は、東日本大震災を経験し、社会と共にある大学であることを改めて認識しました。多くの構成員が、このことを胸に刻み、自らの研究成果をもって社会の変革を先導する活動に関わっています。これらの社会連携活動が、本学の新たなアイデンティティを形づくりつつあります。

 世界的な成果を生む基礎的な研究を進めることも、当然ながら、本学の重要なミッションです。ボトムアップで多様な基礎研究を進められる組織は大学しかありません。世界的な知を創造することは、人類の歴史に貢献するだけでなく、変革を駆動する力の源泉でもあります。社会との連携は多くの場合、深い基礎研究から生まれているからです。世界最高水準の知の創造は、建学時から東北大学が担ってきた役割であり、これからもそうであり続けます。

 以上の二つに加えて、自らが新たなことに果敢に挑戦する「エンジン」をもった人材の育成が、分野を問わず、重要であると考えます。もちろん、教養教育や専門教育の高いクオリティは前提であり、本学としてその部分で引けを取るわけにはいきません。その上で、不透明な現在から明るい未来を紡ぎ出すためには、「エンジン」、すなわち「挑む心」をもった人材を育成する新たな仕組みの確立が不可欠です。入学したばかりの学生たちは、新たな挑戦に心を躍らせ、希望に目を輝かせています。そのような挑戦心を受けとめ、大きく伸ばすことこそが本学の役割であると確信します。私たちはともすれば、背中を見て学んでほしいと考えがちですが、これからの時代を担う世代には、大学での多様な活動に伸び伸びと挑戦して、新たなものを生み出す経験を積むことが何より大切です。この視点から広く大学の活動全般を見直しますし、また同窓生を含めた社会からのフィードバックをお願いすることにしています。

 深い研究が新たな社会連携をもたらし、それらが教育に反映されて次世代を担う人材が育つ、その人材がさらに本学の教育研究の高度化や社会連携の深化を担う要となる。この好循環を、わが国を代表する総合研究大学として確立し、未来を拓くことこそが東北大学の新たな挑戦であると考えます。

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