磁気式3次元モーションセンサシステムの試作とそのさまざまな分野への応用

1. はじめに

 人の運動などを計測する3次元モーションセンサは、人の自然な手・身体の動きやジェスチャを利用して、誰でも直感的にコンピュータやその他の機械を使える未来型のユーザインタフェースを実現する重要な要素技術の1つとして、盛んに利用されてきました。これまで、さまざまな原理に基づくものが提案されてきましたが、いずれも原理上の制約から3次元の運動を計測できる対象に制限があり、利用できる分野は限定的でした。たとえば、道具使用時の細かい手作業中の手指の運動や、土中や障害物の中で動き回わる小動物の運動、互いに複雑に絡み合う多関節物体の動き、流体の3次元的な動きなどを直接計測することはできませんでした。それは、カメラや距離画像入力装置を用いた光学式の手法によるモーションセンサでは、隠れ(オクルージョン)のために計測できない死角があり、複数の指や個体をそれぞれ区別して安定的に計測することが難しかったためです。また交流磁気式の3 次元モーションセンサも幅広く利用されてきましたが、電源供給や通信のために一般にセンサは有線接続されるため、上記のような対象の運動には邪魔になり、これを回避しようと無線通信やバッテリーを搭載すると、センサ自体が大きく重くなって、やはり自由な運動を阻害していました。

 そこで我々は、これら従来は計測できなかった対象の3次元の動きを計測できる新しい磁気式モーションセンサシステムを実現する研究を、計測原理を提案した電気通信研究所内の石山・枦研究室と進めてきました。そして、その精度や計算速度を向上させるとともに、これを用いてジェスチャを用いたユーザインタフェースなど、いくつかの分野への応用を図ることを目標として、学内と学外の国内外の研究者との協力で、研究に取り組んでいます。

2. 磁気式3次元モーションセンサシステムの試作

図1 磁気式3次元モーションセンサシステムの原理図

図1 磁気式3次元モーションセンサシステムの原理図

 本研究で提案している磁気式3次元モーションセンサシステムの原理を図1に示します。励磁コイル(driving coil)によって生成される磁界中に置かれたLC共振型磁気マーカ(LCコイル)が発する誘導磁界を複数の磁界センサ(pick-up array)で検出し、それらの計測データを基にマーカの3次元位置を特定します。異なる複数の周波数を畳み込んで励磁することにより、これらに対応する複数の共振周波数を持つLCコイル(マーカ)が発する誘導磁界をそれぞれFFT により識別することができます。この際、LCコイルの軸が励磁コイル(driving coil)によって生成される磁界の向きに垂直に近い図1の ID:C のような姿勢の場合、LCコイルを貫く磁束が不足し、計測に十分な強度の誘導磁界を発生できないために、3次元位置を計測できないという問題がありました。

 そこで本研究では、機械学習等を用いて安定な解を高速で計算するアルゴリズムを確立することによりこの問題を解決し、あらゆる姿勢のマーカの3次元位置を計測できるシステムを実現することを第1の目的としています。これまでの研究で、各LCコイル(マーカ)を、重さ1g、直径4mm、長さ15mmの小型軽量で作成し、15個までをそれぞれ区別して、1mm程度以下の位置精度で同時に約30Hzで検出できることを確認しています。このシステムのマーカは、ワイヤレスでバッテリーレスで、オクル―ジョンの問題もない等、他に類を見ない大変ユニークな特徴を有しています。そのため、上述のこれまでできなかったモーション計測を可能とする唯一の方法だと言えます。そこで、これらの分野の問題の解決に寄与することを第2の目的としています。

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