所長退任挨拶 / Greetings from the Previous Director

所長退任挨拶

Greetings from the Previous Director

塩入 諭

 「『人間性豊かなコミュニケーションの実現』が、電気通信研究所のミッションです」と、所長在任中に何度も言葉にしました。就任時の挨拶もこの言葉から始めています。本研究所は情報通信の研究拠点として、多岐にわたる関連分野での研究推進を目的としています。その中で、「人間性豊かなコミュニケーションの実現」が、研究所の方向性を示す理念として所内で共有されたことは、所長としてたいへん嬉しいことです。一方で、この抽象性が高い理念と個々の研究テーマの関連が明確ではないとの指摘を受けることもありました。この点に関しては、30年先を見据えた研究所の将来像をまとめるにあたり、「多様性を享受できるコミュニケーション」と「時空間を超えたコミュニケーション」を目標として設定することで、コミュニケーションの豊かさの実現への道筋を示せたと思います。検討された将来像は、今後、理念と共に研究所のミッション実現の指針となることを期待しています。

所長就任時に目標としたのは、研究時間確保のための支援、研究所の活動実績の回復及び優秀な人材確保のための対策の検討でした。研究時間確保のためには、会議やイベントをできるだけ増やさないことと、できるだけ簡素化を進めることを心がけました。消極的な対応でしかありませんが、コロナ禍での各種イベントのオンライン化の効果もあり、研究時間確保に貢献したものと思います。小さな改善の積み重ねではありますが、今後の研究成果の向上につながることを期待しています。

所長就任時の活動実績は、定常的な運営費の減少や教員の入れ替わりの影響もあり、論文業績、大型プロジェクトなど評価指標において厳しい見通しを持っていました。短期的な対応としては、各教員に危機感を共有し、評価を意識した研究活動を心がけてもらうことを考えました。これは、ある名誉教授の先生の「優秀な先輩方の退職時にその後を十分に受け継いでいけるか心配であったが、その危機感を持ったことにより、その後の研究所の発展に貢献できた」との趣旨の言葉を参考にしてのことでした。一時的に評価指標が低下することは、状況によって不可避であっても、本研究所教員の研究力を考えると、そこからの回復は十分期待でき、研究時間の確保も含めてより良い研究環境を維持することで、今後も多くの質の高い研究成果が生み出されると信じています。

長期的に高いレベルの研究活動を維持するためには、優秀な人材確保が不可欠です。人件費の推移や外部資金を考慮し、10年後の教員構成を検討することも将来に向けて重要な取り組みとなりました。今後の大学を取り巻く環境の変化にも柔軟に対応する必要がありますが、この検討を通して議論された、若手研究者を含む優秀な人材確保の精神を生かすことで、将来にわたり本研究所がさらに発展することが期待されます。

最後になりますが、所長の任にあった4年間、多くの方に支えられ、そのおかげで無事に退任することができました。電気通信研究所の教員、職員、学生の皆様全員に、深い感謝の意を表して、退任の挨拶とさせて頂きます。