通研シンポジウム「災害に強い情報通信ネットワークを考える」の概要

このシンポジウムでは,まず,電気通信研究所所長の中沢教授が開催の趣旨と期待を述べました.次いで第1部では,震災を受けて今後の展望を見据える講演が3件ありました.まず東北大学北村副学長から,本学の震災被害状況と,震災からの創造的復興を目指す全学的取り組みである東北大学災害復興新生研究機構計画の紹介がありました.東北総合通信局の井澤局長は,東北地方における通信ネットワークや放送関係の被災と復旧の努力について,また,今次震災を教訓とした今後の情報通信技術の展望を示されました.東北経済産業局の豊國局長からは,東北地方における産業界の震災被害と,そこからの着実な歩みについて今後の展望も含めてご紹介がありました.

第2部では,地元地方自治体,通信事業者,そして電気通信研究所から,震災を受けた情報通信技術の課題に関する講演が行われました.まず,仙台市の伊藤副市長からは,仙台市における震災の状況と,その中から浮かび上がってきた防災無線,避難所における情報通信技術活用などの課題の紹介の後,今後,東北大学の情報通信技術研究に対し,情報通信社会基盤の強化や情報通信技術を通じた産業振興などを期待するとのメッセージをいただきました.また,NTT東日本の岡取締役は,今回の震災による通信ネットワークの重大な被害状況と,それにもかかわらず,急速な復旧を遂げている現状を報告されました。更に,今後は,今回の震災を受け,より安心・安全な通信サービス提供に向けて,耐震性や耐停電性に優れたネットワーク中枢系統の構築,宅内装置の停電対策,コンビニエンスストアなどを活用した情報ステーションの設置の非常時活用などの計画があることが紹介されました.最後に,電気通信研究所の村岡教授から,今回の震災に起因する通信途絶によってコミュニケーション(情報通信)の本来の役割を果たせなかった体験を踏まえて、安全・安心な情報通信技術の構築を目指す意志が示されました.また,情報通信の課題として,電話,防災無線,衛星通信等がつながらなかったり,つながりにくくなったこと,電源喪失の影響を大きく受けて情報通信が機能不全に陥ったこと,被害状況や生活関連状況の情報提供手段が失われたことを挙げ,これらを克服する災害に強い情報通信技術の構築を目指して企画立案が進められているプロジェクト群の紹介がありました.

ここでシンポジウムは30分間のコーヒーブレークに入り,別室やロビーで活発な意見交換が行われました.

第3部はパネル討論で,まずコーディネータの鈴木教授(電気通信研究所)から,仙台市の伊藤副市長が示された,震災から浮かび上がってきた情報通信分野の課題と東北大学への期待のおさらいしがあり,これを受ける形で,6名のパネリストが企業と研究機関の立場から,現状認識と今後の方向性を紹介しました.

まず,ドコモの荒木東北支社長が,今回の震災被害からの復旧状況と,今回を教訓として,今後,災害時の携帯電話アクセス確保の強化対策や,パケット通信を基盤とした音声メッセージサービスの計画などを紹介されました.次いで,KDDIの小林執行役員は,震災被害から復旧状況と,それを踏まえた防災・減災に向け,車載型基地局の増強,基幹ルートの多重化,ネットワークノードの分散配置,人材育成などの多面的な計画を紹介されました。NECソフトウェア東北の岡本社長からは,仙台を本拠地として情報技術によりソリューション提供を使命にしている立場から,安否確認をはじめとした「ここにいる,あなたのための情報」環境をどのように実現しようとしているか,デジタルデバイドの解消という視点も交えてご紹介がありました.また,東北を拠点に世界に通用する製品を作っていきたいという思いが示されました.

NICTの宮部理事は,ハイリスクで高額予算が必要な課題の推進を任務としている立場から,今回の震災が通信途絶や大輻輳などが時空間的にまだら模様に発生したことを背景に,衛星通信やコグニティブ無線の重要性に言及されました.また,研究開発にあたって,利用者視点の重視と,通信事業者間連携の必要性を指摘されました.

東北大学工学研究科の安達教授は,IISセンター長の立場から,地元重視の産学連携を推進してきていること,また,震災後は電子情報通信産業の興隆を通じた復興も重要な担務とすることを紹介しました.また,災害時に1回線当たりの伝送量を絞る代わりに回線数の増を図ることにより,災害につよい「つながる携帯」を実現する計画の紹介がありました.パネリストの意見提示の最後は,主催者の東北大学電気通信研究所から中沢所長が務めました.中沢所長は,情報通信の重大な被害が逆にその重要性を浮かび上がらせたことを背景に,災害に強い情報通信技術の研究・開発を通じて被災地の創造的復興を図ることが重要であること,それには,東北大学電気・情報系の総合力を発揮することが有効であると考えていることを述べました.その実現にむけて,電気通信研究所の全国共同利用・共同研究拠点としての機能を有効に生せるよう,共同プロジェクト研究U(UはUrgent)を創設,早期に研究を開始する旨の紹介がありました.

この後,討論に移り,まず,東北大学への期待として,荒木氏からは「利用者発想,スピード,フォーカス,先取り」とのキーワードが,小林氏からは「大胆な発想のアイディア,被災地からの電子ベース情報発信・情報共有」が提示されました。岡本氏からは「産業界の模索を理解し産官学のハブとして,東北拠点に世界に通用する技術を生み出す核になって欲しい」と,また宮部氏からは「先端技術,耐災害技術の拠点として,有効性実証に努めて欲しい」との言葉がありました.

更に,何名もが異口同音に語っていた「つなぐ」という思いをベースとした議論,質疑応答が続き,通信途絶や大輻輳が情報伝達不全と混乱を引き起こしたことをしっかりと受け止め,必要なときに必要な人や物への(情報)アクセスを確保することが重要であるとの認識で一致しました.最後に鈴木教授から「東北大学は,大胆な発想でスピードを持って,被災地のニーズに即したフォーカスされた課題の先端研究に,また,被災地ならではの実証研究にもしっかりと,産学官のハブとして取り組んでいくことが重要」とのまとめがありました.

最後に,電気通信研究所副所長(研究・企画担当)の塩入教授から挨拶がありました.塩入教授は,今回の議論を通じて感じたこととして,災害に強い情報通信技術の研究・開発に当たっては,何十年,ときには千年に一度の頻度の災害のときにしか有効ではない技術を目指すのではなく,平時からも役立つ技術として作っていくことが大事であるとの視点を提示し,このシンポジウムを締めくくりました.

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