鈴木 陽一
Yōiti Suzuki
人間情報システム研究部門 教授
Human Information Systems Division, Professor

2019.3 退職

1999年から務めてきた通研の教授を全うすることができ,「定年退職はお祝い」を実感しています。初めは音の大きさ(ラウドネス)知覚過程の工学応用に関するものでした。この研究はラウドネス補償型ディジタル補聴器の研究につながり,更には聴覚の最も基礎的な特性のひとつであるISO226「等ラウドネスレベル曲線」の全面改訂を18年がかりで2003年に実現できました。

これらの研究を通じ,私は人間の知覚情報処理特性の解明が音情報システム高度化の鍵との思いを強く持つようになりました。

教授昇任後の新領域であるセキュア音メディア技術では,聴覚の位相知覚特性を精査し,それに基づいて音質劣化を抑えた電子透かしの研究開発を行いました。震災後はディジタル補聴器で培った技術を応用して屋外拡声システムの高度化に取り組んできました。

この20年で最も注力したのは3次元音空間に関する研究です。音空間知覚過程は聴覚に前庭感覚なども加わったマルチモーダル感覚情報処理過程であると考え,その解明を進めました。対になるシステム研究では3次元聴覚ディスプレイの高度化を進めました。この間,特別推進研究を得て,関連の学際的研究を進められたのも深い思い出です。最後には,20年以上前に発想した3次元聴覚ディスプレイの革新技術を球面調和解析に基づいて精緻化,刷新することもできました。

これも研究室内外の多くの仲間と,研究室に集ってくれた100名を超えるすばらしい学生,大学院生との協働の賜です。通研だったからこそとの強い思いを抱きつつ,その更なる発展を心から願い,確信する私です。