巻頭特集/グラフェン・テラヘルツレーザーの創出

はじめに

図1 グラフェンの結晶構造(左)とエネルギーバンド構造(右)。

図1 グラフェンの結晶構造(左)とエネルギーバンド構造(右)。

 将来の情報通信技術の飛躍的な発展には新たな周波数資源の開拓が必須です。トランジスタやレーザーダイオード等の半導体デバイスの世界では、光波と電波の融合域であるテラヘルツ(THz)領域は長らく未開拓領域として取り残されてきました。そのような中で、炭素原子の単層シート「グラフェン」が夢の光電子材料として注目されています。グラフェンは、炭素原子1個分の厚みしかない六角形をした蜂の巣状の格子が連なった単層シートです(図1)。2004年に英国・マンチェスター大学のA.K. Geim博士とK. Novoselov博士らの研究グループによって、グラファイトからの単離によって発見されました。彼らのこの発見とグラフェンの極めて特異な性質の実験検証が評価され、2010年にノーベル物理学賞が両氏に授与されました。今、最もホットな新材料の一つです。

 私がグラフェンと出会ったのは、彼らが単離に成功した2004年後半のことでした。本特別推進研究でも共同研究者のV. Ryzhii博士(通研客員教授)からの紹介によります。その後、Ryzhii教授(当時・会津大)に加え、通研の末光眞希教授、ならびに北大の佐野栄一教授グループとの連携も叶い、平成21年度よりJST-CRESTプログラムとしてグラフェンの生成とその次世代デバイス応用の研究を本格的に展開してきました。本研究は、グラフェンの特異な光電子物性を積極的に活用し、従来成し得なかった電流注入型の室温THz波レーザーを創出しようとするものです。平成23年度科学研究費補助金・特別推進研究として採択され、平成27年度までの5か年計画で推進しています。本稿では、グラフェンの魅力とその研究の一端をご紹介します。

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