巻頭特集/最先端・次世代研究開発支援プログラム

1. はじめに

 「最先端・次世代研究開発支援プログラム」は、45歳以下の若手研究者を対象に、中長期的な我が国の科学・技術の発展、持続的な成長と政策的・社会的課題の解決に資する先端的研究開発を支援することを目的に、内閣府が2010年度に創設したプログラムです。本プログラムでは特に、グリーン・イノベーションまたはライフ・イノベーションの推進に幅広く寄与する挑戦的な研究課題が対象とされています。私が超高速光通信研究室において取り組んできました超短光パルス伝送技術をグリーンICTインフラとして高効率化するための研究開発が本プログラムに採択され、2011年2月より4年間研究を推進してきました。本稿では、これまでに得られた成果を中心に研究の概要についてご紹介致します。

2. 研究の背景

 国内のインターネットトラフィックは既に1Tbit/sを超え、現在も年率40%の勢いで増加を続けており、グローバル規模での情報量の急増が問題になっています。エネルギー消費を抑えつつ情報爆発に対応可能な超大容量光通信網を実現するためには、周波数利用効率(単位周波数幅の中で伝送可能な通信速度)を如何にして増大させ、省資源化・低消費電力化を図るかが重要な課題となっています。

 そこで本研究は、グリーン・イノベーションの牽引力として、光の高速性とコヒーレンスという特徴を最大に利用した究極的な性能を有する光通信の実現を目標としています。具体的には、超短光パルスの振幅および位相に同時に情報を乗せ、さらに光時分割多重(OTDM: Optical Time Division Multiplexing)方式を導入することにより、超高速かつ高効率な光伝送技術を実現することを目的としています。本技術は、光の領域でTDMを行うことから、電子デバイスの処理限界を超える超高速伝送が低い消費電力で実現できる点が特徴です。それと同時に、振幅と位相を多値変調することにより周波数利用効率が格段に向上し、限られた周波数資源を有効に利用できることから、基幹光通信システムの省エネルギー化および高効率化に貢献できると期待されています。

 これまでに、コヒーレントな光パルスをシンボルレート(パルスの繰り返し周波数)160Gsymbol/sに時間多重し、これを64QAM(Quadrature Amplitude Modulation)と呼ばれる方式で多値変調・偏波多重することにより、単一チャネル1.92Tbit/sの速度で150kmの伝送に成功しています。また、サブピコ秒の超短光パルスを用いて2.56Tbit/sの速度で300kmの超高速偏波多重伝送を実現するとともに、光ファイバの偏波分散(PMD: Polarization Mode Dispersion)が超短光パルスの伝送性能を制限する支配的要因となることを示しました。これを克服するための取り組みとして、新しい光パルス「光ナイキストパルス」による超高速・高効率TDM伝送技術に取り組んでいます。

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