巻頭特集/最先端・次世代研究開発支援プログラム

本プロジェクトの概要

図2 キックオフシンポジウム看板

図2 キックオフシンポジウム看板

 電気通信研究所では「高密度及び高次の情報通信に関する学理並びにその応用の研究」を設置目的とし、コミュニケーションの科学技術に関する学理と応用の研究を行い、長期的視野に立脚した基盤研究の充実を図ることを目標に掲げ、人と人との円滑なコミュニケーションのみならず、人間と機械の調和あるインターフェイスまでを包括した「人間性豊かなコミュニケーション」の実現を目指した高い水準の研究を行っています。上記の目標は、これまでの情報通信システムをさらに高速化して大量の情報処理が行えるようにするだけでは達成することができません。それは、ハード的にはLSIの集積化の物理限界に近づいているために情報処理能力の飛躍的な発展が望めない状況にあり、またソフト的には硬い論理と逐次処理に基づくノイマンアーキテクチャでは実世界の複雑さに柔軟に対応できないという限界が明らかになったことに起因します。したがって、これらの限界を超えるには、現在の情報通信におけるハード主導型の研究開発から、ハード・ソフト 融合(=ブレインウェア)型の研究開発へのパラダイムシフトが必要となります。

 このような背景のもと、電気通信研究所ブレインウェア実験施設は、本研究所附属研究施設として平成16年4月の研究組織の改組・再編と同時に新設されました。本施設の目的は、本研究所及び本所と密接な関係にある本学電気・情報系の各研究分野の研究成果と全国のブレインウェア分野の研究者の英知を結集して研究を行うことで、電脳世界と時々刻々複雑に変化する実世界をシームレスに融合する次世代情報システム基盤技術を世界に先駆けて創製することにあります。具体的には、(1)生物のようにしなやかかつレジリアントに実世界環境に適応可能な「生き生きとしたシステム」の設計原理の理解とその知的人工物システムへの実装方策の構築、(2)大局的配線を極端に削減できるロジックインメモリVLSIアーキテクチャならびに大局的配線を高速に駆動する多値電流モード非同期回路技術による新概念VLSIの実現、(3)知的な柔軟性のある高速処理の実現に向けたブレインライクな知的情報処理システムの構成的研究とそれに向けた新デバイスの開発による次世代知的ハードウェアシステムの構築、を主なテーマとした研究を行っています。これらのテーマに基づく材料・デバイスからアーキテクチャ・システム応用までの一貫した研究開発により、アクティブ人工ニューロンLSI(Y. Hayakawa, et al., IEEE TNN, 2010)や不揮発素子ベースロジックインメモリ型再構成可能LSI(M. Natsui et al., ISSCC2013)など、脳型LSI基盤技術に関連した数々の世界トップレベルの研究実績を挙げてきました。

 平成26年4月、本施設は新たに「ブレインウェア研究開発施設」と名称を改めるとともに、今までのハード主導型研究開発からハード・ソフト融合型研究開発へ研究ステージをシフトすることによる飛躍的な研究展開を推進するため、通研内の「人間情報システム」研究部門に所属する教員を推進メンバーとして加えた新たな組織体制による研究体制を構築致しました。本プロジェクトでは「認識・学習」「超並列処理」「自律分散処理」を脳の主要な機能と位置付け、ハードとソフトを一新した究極の自律的情報システムを基盤とすることで、五感情報処理や意思決定といった人間の高次情報処理機能を取り入れた新概念脳型LSIを開発することを目標としています。

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