文部科学省光・量子飛躍フラッグシッププログラム(Q-LEAP)光子数識別量子ナノフォトニクスの創成

3. 研究体制

図2.研究組織図

図2.研究組織図

 本研究では、核となる二つの素子技術、すなわち超低損失シリコン細線導波路および超伝導光子数識別検出器の高性能化が必要不可欠です。本プロジェクトは、東北大学(電気通信研究所および大学院工学研究科)、産業技術総合研究所、日本大学の研究チームから構成され(図2)、東北大グループが超低損失シリコン細線導波路を用いた光子対光源および光子バッファの開発、産総研グループがシリコン基板上に実装可能な超高量子効率・高速超伝導光子数識別検出器(超伝導転移端センサ:TES)の開発を担当します。日大グループは光子数識別検出を基盤とした量子計測技術を開発し、東北大グループと協力して、量子光集積回路として実装します。このような、光源系、検出器系、計測系の三位一体の協力関係によって強力に研究開発を推進する計画です。

4. 研究計画

図3.研究のロードマップ

図3.研究のロードマップ

 図3に、本プロジェクトのロードマップを示します。光・量子飛躍フラッグシッププログラム(Q-LEAP)は、競争的研究資金としては珍しく10年という比較的長いスパンの研究開発プログラムです。それに沿って、本プロジェクトでは、フェーズ1(初年度~3年度)、フェーズ2(4年度~6年度)、フェーズ3(7年度~10年度)の3期、計10年計画で研究を進めます。ただし、途中でステージゲート審査が予定されており、最終年度まで研究を継続できるプロジェクトの数が絞られることになっていますので、各フェーズにおいて鋭意努力しながらプロジェクトを進める計画です。

フェーズ1 (初年度~3年度)
(1) 超低損失シリコン細線導波路の開発(東北大)
(2) プロトタイプ光子数識別光源の開発(東北大、産総研)
(3) 高性能光子バッファの開発(東北大)
(4) シリコン基板上に実装可能な光子数識別検出器の開発(産総研)
(5) 光子数情報附帯量子計測回路の開発(日大)

フェーズ2 (4年度~6年度)
(1) 集積化光子数識別光源の開発(東北大、産総研)
(2) シリコン基板上に実装可能な超高速光子数識別検出器の開発(産総研)
(3) 光子数情報附帯量子計測回路の開発(東北大、産総研、日大)

フェーズ3 (7年度~最終年度)
(1) 超高速光子数識別光源の開発(東北大、産総研)
(2) 光子数識別光源と光MEMS 集積回路を用いた量子計測技術の開発(東北大、産総研、日大)

5. 関連技術と今後の展望

 必要な時に必要な量子状態の光子を放出できるオンデマンドの単一光子源や光子数識別光源は、光子を用いた量子計測、量子情報通信技術に不可欠なものとして各国で開発競争が激化していますが、実用的なオンデマンド光子源や光子数識別光源は未だ実現していません。本研究で開発する光源は、量子計測、量子情報通信技術における画期的技術となるものです。超伝導光子数識別検出器は、米国や欧州で強力に開発が行われていますが、極めて高い量子効率、繰り返し周波数、光子数分解能を両立している点で、本プロジェクトの産総研グループが開発した検出器(図4)は現時点で世界最高性能をもつ独創的技術です。東北大グループは、この検出器を用いて、量子光源の一種であるパラメトリック下方変換光における光子数分布が、理論的に予想される幾何分布となることを世界で初めて検証しました。本プロジェクトはその独創的技術をさらに推し進め、超高速かつシリコン素子上に実装可能な革新的素子の開発とその応用を目指します。シリコン細線導波路はシリコンフォトニクス技術の要として各国において精力的に研究開発が進められています。現在まで、NTTが開発し東北大グループが量子光源としての性能評価を行った素子が世界最小の伝送損失を有していますが、本プロジェクトでは、東北大グループの金森が開発した独自技術「水素アニーリング」を用いて、さらなる低損失化に挑戦し、世界最高性能の光子数識別能力をもつ量子光源を実現する計画です。光集積量子回路は、各国で開発競争が進んでいますが、量子光源や光子数識別検出器と集積化した例はなく、本研究はその新たな道を拓くものとなります。

 本プロジェクトでは、これら独創的技術を有する各研究グループが一致協力することでのみ実現し得る、革新的量子計測技術の実現を目指します。本プロジェクトで実現される技術は、量子計測・量子情報通信のみならず、超微弱光計測を含む広範な光計測技術に応用可能であるほか、光量子シミュレータ等の大規模光量子情報処理回路の開発を促すことにもつながります。このように、本プロジェクトで創出する量子光源、検出器、量子光計測に関する最先端技術は、広範な分野で大きなインパクトをもって迎えられるものと期待されています。

図4.超伝導光子数識別検出器(左)および光子数識別能力(右)

図4.超伝導光子数識別検出器(左)および光子数識別能力(右)

Page Top