JSTさきがけ バッテリレス無線センサネットワークのためのポスト量子暗号計算技術

3. 今後の展望

 これまでのPQC 実装の多くは計算コストに着目したものが多く、表1に示す符号暗号や格子暗号に関するものが支配的でした。本研究では、同種写像 (SI) 暗号で用いられる巨大なガロア体上の算術演算の効率化により鍵長・通信量と計算時間のトレードオフを打破することで、PQCをWSNに用いられるリソース制約が厳しいモジュールに実装可能とすることを目指しています。そのために、これまで開発してきたガロア体の表現変換と演算の圧縮技術をPQCで用いられる巨大なガロア体へ拡張して適用することを検討しています。現代の暗号技術の多くはガロア体算術を用いており、今後もガロア体算術に基づく暗号アルゴリズムの開発が予想されるため、本研究で開発する計算技術は暗号技術一般に広く適用可能なものとなることを期待しています。本研究を開始して半年が経過しましたが、用いるガロア体表現を選定しPQCハードウェアの算術演算コアのプロトタイピングを行うなど順調に推移しています。本研究で開発する計算手法によりPQCの実装コストを従来の公開鍵暗号と同等とすることで、より早いPQCの普及を促進し、より安全な情報社会の実現に貢献することを目指しています。

 また、本研究では、効率的なPQC 実装手法の開発に加えて、共通鍵暗号や物理複製困難関数 (PUF) に基づく耐タンパー性暗号鍵ストレージ、さらに乱数生成器などの実装手法に関する研究を並行して行い、それらを利用した高安全WSNモジュールの実現方式の検討も行う予定です。

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