磁気式3次元モーションセンサシステムの試作とそのさまざまな分野への応用

3. さまざまな分野への応用

 科学技術の多くの分野で、従来は3次元モーション計測ができなかったために取り組むことができなかった問題のいくつかに、2章のシステムを活用することによって、解決の糸口を与えようと考えています。その例を簡単に紹介します。

図2 各指に装着したLCコイル(マーカ)による手指の運動計測

図2 各指に装着したLCコイル(マーカ)による手指の運動計測

(a) 道具操作時の細かい手指運動のモーションデータベース構築とアニメーションの自動生成

 コンピュータアニメーションの研究分野では、繊細な手指運動、特に手で道具などの物体を操作する動きのモーションデータベース構築が期待されていますが、その目的に適したモーションセンサがこれまでありませんでした。本システムは、光学的な遮蔽を問題とせず、複数の点を実時間計測可能であるため、この目的に適しています。図2のようにLCコイル(マーカ)を各指等に装着して被験者実験を行い、道具操作等の運動を大量に収集して、データベースを構築します。これは、アニメーションの自動生成等、コンピュータアニメーションの研究に新しい可能性を与えることができます。


図3 クワガタにLC コイル(マーカ)を装着した例

図3 クワガタにLCコイル(マーカ)を装着した例

(b) 昆虫やマウス等の小動物の3次元モーション長時間連続計測

 土中や障害物の中で動き回わる小動物の運動は、従来システムでは計測することができませんでした。本システムは、小型軽量のマーカでオクル―ジョンの問題もないため、この問題解決が可能です。しかも、マーカはワイヤレスでバッテリーも必要ないため、小動物の運動を妨げることなく、数日でも、あるいはもっと長時間の連続計測が可能です。図3はクワガタにLCコイル(マーカ)を装着した例です。他にも、障害物と同じケージ内にいる複数のマウスを個体識別しつつ行動計測・解析することが可能になるため、集団で生活を営む習性を持つマウスを対象にした社会性行動解析の研究等にも貢献できると考えています。

(c) 多関節物体の運動計測とその応用

 互いに複雑に絡み合う多関節物体の3次元的な動きは、最も計測しにくい対象の1つです。歯車が複雑に組み合わさって連動する関節機構の実機解析等、様々な対象の例が考えられます。その1つとして、例えばルービックキューブの状態推定があります。カメラで観察して認識するという手段も考えられますが、手による遮蔽やルービックキューブの可動の自由度の高さから、必ずしも正確には計測できません。そこで、小型でワイヤレスで複数を区別して同時に計測できるという本モーションセンサシステムの特徴を活かせる例と言えます。

(d) 流体の直接計測データに基づくインタラクティブな流体シミュレーション

 流体の計測手法としては、レーザ光を照射してトレーサ粒子の速度をカメラで計測する手法や、超音波画像による計測などがこれまで一般的でした。しかし、カメラからのオクルージョンが生じない条件での計測や、2次元断面内の計測に留まっていました。そこで、本3次元モーションセンサシステムを使って流体の3次元的な動きの直接計測を試みます。流体が入った水槽にLCコイル(マーカ)を内蔵するブイを浮かべると、水面の動きを計測ができます。おもりでブイの浮力を調整すると、流体の内部の動きも計測できます。これらの観測データを拘束条件として、全体のシミュレーション計算に反映させ、観測データを活かした流体のインタラクティブな実時間シミュレーション手法を検討する予定です。これは、様々な応用分野を拓くと考えられます。

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