巻頭特集/グラフェン・テラヘルツレーザーの創出

研究計画と期待される成果

図4 電流注入型グラフェンTHzレーザーの基本構造とTHz帯負性導電率の数値解析例。

図4 電流注入型グラフェンTHzレーザーの基本構造とTHz帯負性導電率の数値解析例。

 より低いフォトンエネルギーの光でポンピングすると、生成される光電子・正孔の温度上昇が抑えられ、反転分布の形成が容易になり、利得の向上につながります。その極限はフォトンエネルギーをmVオーダーにまで低下することですが、半導体レーザーダイオードと同じように、電気的なポンピングなら容易であることがすぐに思いつきます。いわゆる電流注入型のレーザーです。私たちは、グラフェンを電子走行チャネルとする特殊なトランジスタ構造によって電気的なポンピングが可能なことを見出し、理論解析によって利得スペクトル特性が光学ポンピングより優れることを明らかにしました(図4)。乾電池1個で室温発振する新しい電流注入型THzレーザーを創出することが、究極の目標です。

 グラフェンの特異な光電子物性は、グラフェン中の二次元電子系の集団素励起によって生じる分極振動量子(プラズモン)にも興味深い性質をもたらします。私たちは、特定の条件下でプラズモンを励起すると不安定状態に陥り、THz帯で高強度の自励発振現象が生じることを理論的に発見しました。この巨大プラズモン不安定性をTHzレーザーに導入することも興味深い挑戦的課題です。

 今回採択された特別推進研究においては、第一に、THz帯レーザー共振器を構成して光ポンピングによる室温レーザー発振に挑戦します。第二に、グラフェンの二次元電子系に励起される巨大プラズモン不安定性を利得増強手段として導入しうる素子構造・動作機構を明らかにし、その有効性を実証します。第三に、これらの新構造を用いて電流注入型THzレーザーを試作し、世界初の室温THzレーザー発振に挑みます。室温発振可能な電流注入型レーザーが実現すれば、超高速THz無線通信やTHzカメラなど、将来の安心・安全・ユビキタスなICT社会に革命をもたらすほどの効果が期待されます。その実現に向けて、研究室スタッフをはじめ、多くの関係する研究者・学生諸君とともに日夜研究開発に取り組んでいます。

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