Human Frontier Science Program Robotics-inspired Biology: Decoding Flexibility of Motor Control by Studying Amphibious Locomotion

1.研究内容

図2 制御の壁を越えるためには、工学的手法のみに頼った力ずくのアプローチではなく、理学的な視座にも基づくことが必要だと考えます。

図2 制御の壁を越えるためには、工学的手法のみに頼った力ずくのアプローチではなく、理学的な視座にも基づくことが必要だと考えます。

 人工知能技術(AI)は近年、長足の発展を遂げ、その成果に関するニュースを見かけない日はないほど、われわれにとって身近な存在となりつつあります。いまや、囲碁でもAIが名人を打ち負かすに至るまでなっていることをご存知の方も多いでしょう。その一方で、実世界をしなやかかつタフに動き回るロボットは依然として実用化レベルに至っていません。現在最先端のロボットは、昆虫レベルの運動能力すら持つに至っていないのです。なぜでしょうか? それは、現在のAIには「環境とリアルタイムで折り合いをつける適応能力」が完全に欠落しているからです。この能力をロボットに実装するためには、やみくもに工学的アプローチに基づいて制御プログラムを考えるのではなく、このような能力を動物がどのように発現しているのかの理解を目指す、理学的なアプローチにも立脚した方法論を併用することが有効だと思われます(図2参照)。「理解なくして実現なし」というのがわれわれの信念です。単純な神経系しか持たない動物種が実世界環境を苦もなく動き回っていることを考えますと、このような振る舞いの背後には力ずくの計算に頼らない、人知を超えるからくりがあるはずです。これを明らかにすることができれば、工学的に資することはきわめて大きいでしょう。

図3 ポリプテルス、サンショウウオ、そしてムカデが示す水陸両用のロコモーション様式。それぞれの動物種において、左が遊泳、右が歩行の際の身体の自由度の使い方を示しています。このように、周囲場の物理的特性に呼応して、身体自由度の使い方を劇的に変化させます。

図3 ポリプテルス、サンショウウオ、そしてムカデが示す水陸両用のロコモーション様式。それぞれの動物種において、左が遊泳、右が歩行の際の身体の自由度の使い方を示しています。このように、周囲場の物理的特性に呼応して、身体自由度の使い方を劇的に変化させます。

 それではどのようにすれば、このような能力を発現しうるからくりの解明に迫ることができるのでしょうか。われわれは、このような能力があらわに観察できる動物種を見出して、それら特有の振る舞いを突破口にすることを考えました。今回、HFSPに採択されたわれわれのプロジェクトは、水陸両用のロコモーションを示す動物種を突破口として、動物が示す環境とリアルタイムで折り合いをつける能力の解明とロボットへの実装を目的としています。具体的には、サンショウウオ、ポリプテルスと呼ばれるある種の魚、そしてムカデです。これらの動物種は陸上と水上で興味深い振る舞いを見せます。もう少し詳しく説明しましょう。図3に示すように、サンショウウオは地面の上では四肢を使って歩きます。この時、胴体は定在波を発生させて左右にくねり、歩幅を増やしてより効率的な推進を実現しています。一方、水中では、四肢を胴体に近づけて抵抗を減らしつつ、胴体に頭部から尾部に向けて進行波を発生させて泳ぐのです。ポリプテルスは、水中では頭部から尾部に向けて進行波を発生させて泳ぐのですが、地面があると、胸びれを肢として活用して歩行します。脚が20対以上あるムカデはどうでしょうか? 地面ではこれらの脚を巧みに協調させて歩くのですが、水の上に置くとサンショウウオと同じように、なんと脚をたたんで胴体に進行波を生成して泳ぐのです! つまり、水陸両用のロコモーションを示すこれらの動物種は、培地の物理的特性の変化に呼応して、身体にある自由度の使い方を劇的に変化させて適応するわけです。そのため、このような現象には動物が示す環境適応能力のからくりが凝縮されており、これを糸口にして適応能力に内在する制御原理に肉薄するというのがわれわれの作戦なのです。このようなアプローチを通して、既存技術では決して成し得なかった、優れた環境適応能力を有する自律移動ロボットの創成につなげたいと考えています。

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