巻頭特集/最先端・次世代研究開発支援プログラム

3. 研究成果

(2)超高速テラビット伝送におけるPMDの影響と超短光パルスの伝送限界の究明

 超高速パルス伝送の限界を究明するために、光パルスの幅を0.6psまで圧縮し、OTDMでシンボルレートを640Gsymbol/sまで高速化して長距離伝送実験を行いました。変調方式にはDQPSK(Differential Quadrature Phase Shift Keying:4値の差動位相変調)を用いており、伝送速度は2.56Tbit/sに達します。実験の結果、このような超短パルス伝送では距離の拡大とともに伝送性能が急激に劣化することがわかりました。その様子を図3に示します。その原因を究明したところ、光ファイバのPMD、特にDepolarizationと呼ばれる2次PMDの効果が、直交する偏波チャネル間に大きなクロストークをもたらすことを新たに見出しました。PMDは光ファイバ固有の歪み要因であり、1次のPMDは様々な補償方法が開発されていますが、2次PMDの補償は困難です。理論解析の結果、このクロストークは伝送距離の2乗、およびスペクトル帯域の4乗に比例し、パルス幅を狭くするほどその効果が急激に増大することが明らかになりました。このことが究極的には超高速パルス伝送の限界を決定すると考えられます。

図3 超高速テラビット伝送における2次PMDの影響

図3 超高速テラビット伝送における2次PMDの影響

 

(3)光ナイキストパルスによる超高速光伝送の高性能化

 これまで述べてきたように、信号帯域の狭窄化は、周波数利用効率の拡大のみならず、超短光パルス伝送におけるPMDの影響を低減するためにも不可欠です。しかし、従来高速伝送に用いてきたGauss型やSech型の超短光パルスは、隣のビットと重なり合うと干渉により情報が識別できなくなるため、出来るだけ幅を狭くする必要があり、周波数帯域の広がりが避けられませんでした。そこで我々は、帯域広がりを抑えつつ高速化を実現できる新たな光パルス「光ナイキストパルス」を提案しています。その原理を図4に示します。ナイキストパルスは帯域が狭いものの、隣り合うパルスどうしを重ねて送っても情報を完全に識別できる特徴があるため、幅広な光パルスを使っても超高速通信が実現可能です。ナイキストパルスを使って単一チャネルテラビット伝送を行った結果、PMDによるクロストークを4dB以上改善でき、従来方式を大きく上回る伝送性能を達成しています。

図4 通常のTDMと光ナイキストパルスのTDMとの比較

図4 通常のTDMと光ナイキストパルスのTDMとの比較

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