沿革

1 誕生まで

 東北大学における電気通信に関する研究は、1919 年(大正8年)、工学部に電気工学科が開設された当初から開始されました。当時、電気工学といえば強電工学が中心でしたが、学科開設に当たり敢えて弱電工学の研究に目を向けていきました。
 1924年(大正13年)、八木秀次、抜山平一、千葉茂太郎の三教授の「電気を利用した通信法の研究」に対し、財団法人斉藤報恩会から、巨額な研究費が補助されました。これにより、我が国で初めて、電気通信に関する研究が組織的に行われるようになりました。新進気鋭の渡辺寧、松平正寿、岡部金治郎、宇田新太郎、永井健三、小林勝一郎などが相次いで加わり、体制が整備されました。その結果、多くの 研究成果を挙げ、多数の論文が内外の雑誌に発表されて注目を集めました。
 その後の電気通信技術の発達や通信機器の普及と も相まって電気通信に関する研究の重要性が一層認 識され、東北帝国大学に電気通信に関する研究を目的とした研究所を設置しようとする機運が次第に高まっていきました。その結果、1935年(昭和10年)9月25日、東北帝国大学官制の一部が改正され、附属電気通信研究所の設置が公布されました。初代所長には抜山平一教授が兼務し、専任職員として助教授3名、助手6名、書記1名が認められました。 この研究所は、電気工学科から発展的に独立した 経緯から工学部とは並列する形態をとってはいまし たが、建物は電気工学科の一部を借用し、研究施設 も従来のものを踏襲したものでした。このこともあっ て電気工学科とは不即不離の関係にあり、官制上の 定員より遥かに多くの実質的な定員を擁して研究組織も研究内容も一段と強化され、大いに成果を挙げられるようになりました。

2 揺籃と成長

 1941年(昭和16年)、電気通信技術者養成に対する社会の要請に応え工学部に通信工学科が設置されました。電気通信研究所は、電気工学科、通信工学科と三者一体となった協力体制で研究と教育にあたり、多彩な研究と豊かな人材育成の実を挙げ、いわゆる一体運営の伝統が着々と育てられました。
 1944年(昭和19年)、官制の改正により、東北帝国大学附属電気通信研究所は附置研究所に移行いたしました。専任教授の定員を得て5部門からなる独立した研究所の体制を整えましたが、研究教育に対する電気工学科、通信工学科との密接な体制は引き続き堅持されました。
 第二次大戦後の困難な時期にも辛うじて戦災を免れた研究施設で研究が続けられました。1949年(昭和24年)、国立学校設置法の公布により、新たに国立大学として東北大学が設置され、その附置研究所として改めて電気通信研究所が設置されました。
 その後のエレクトロニクス分野の急速な進展に伴 い、本研究所は、1954年(昭和29年)と1957年(昭和32年)に1部門ずつ、1961年(昭和36年)に4 部門、1962年(昭和37年)と1963年(昭和38年)に3部門ずつ、1965年(昭和 40 年)、1969 年(昭和44年)、1976年(昭和51年)にそれぞれ1部門ずつと、次々に研究部門が増設され、20研究部門、教職員およそ100名からなる大研究所へと発展しました。
 1956年(昭和31年)、片平構内旧桜小路地区に電気通信研究所としては初めての独立した新営建物(現在の多元物質科学研究所の一部)が竣工しました。
 その後1963年(昭和38年)3月末、同じ片平構内旧南六軒丁地区にその倍以上の新営建物(現在の1号館S棟)ができ、桜小路地区から南六軒丁地区への移転が開始されました。1966 年(昭和41年)には、工学部の青葉山移転に伴い旧電子工学科の建物(現在の 1 号館N棟)が、1969年(昭和 44 年)には工業教員養成所の廃止に伴い養成所の建物(現在の 2 号館)が、本研究所の建物として加えられ、全部門の移転が完了しました。さらに、1984年(昭和59年)には超微細電子回路実験施設(平成6年3月時限)が設置され、1986年(昭和61年)にスーパークリーンルーム棟が完成しました。平成6年4月には超微細電子回路実験施設を更に発展させる新施設として、超高密度・高速知能システム実験施設が設置されました。
 一方、本研究所と密接な関係にある工学部電気系 学科には、1958年(昭和33年)に電子工学科が加わりました。また、1972年(昭和47年)に応用情報学研究センターが設置され、1973年(昭和48年)には大学院工学研究科に情報工学専攻が、1984年(昭和59年)には工学部に情報工学科が増設されました。これが基盤になって、1993年(平成5年)には大学院に情報科学研究科が新たに設置されることになりました。1994年(平成6年)には大学院重点化に基づき、工学研究科の電気及び通信工学専攻と電子工学専攻が電気・通信工学専攻と電子工学専攻に改められ、専任講座を含め併せて9講座が設置されました。さらに、2007 年(平成19年)に電気系4学科と応用物理学科が統合して情報知能システム総合学科となり、2015年には電気情報物理工学科に名称変更されました。2008年(平成20年)には電気系が積極的に参画して、医学と工学の融合を目指す、我が国初の医工学研究科が新設されています。また、2012年(平成24年)に工学研究科の電気・通信工学専攻が電気エネルギーシステム専攻と通信工学専攻に改められました。

3 発展 ─全国共同利用研究所から共同利用・共同研究拠点へ─

 このように東北大学が大きく変革される中で、電 気通信研究所も1995年(平成7年)に創設60年を迎えることになり、これを期に高次情報化社会を迎えようとする時代の要請に応えて、全国共同利用研究所に改組・転換することとなりました。1994年(平成6年)6月、本研究所は「高密度及び高次の情報通信に関する学理並びにその応用の研究」を行う全国共同利用研究所への転換が認められ、ブレインコンピューティング、物性機能デバイス、コヒーレントウェーブ工学の3大研究部門に改組されました。それとともに、時限を迎えた超微細電子回路実験施設に代わって、3部からなる超高密度・高速知能実験施設が設置されました。
 この間、IT革命と呼ばれる情報通信技術の急速な 進歩があり、情報化社会が現実のものとなりました。情報化社会で本研究所が先導的役割を果たすために、平成13年に本研究所の理念・目的・目標が新たに設定されました。理念として「人と人との密接かつ円滑なコミュニケーションは、人間性豊かな社会の持続的発展のための基盤であり、コミュニケーションに関する科学技術を飛躍的に発展させることで我が国のみならず広く人類社会の福祉に貢献する。」ことを掲げ、高密度及び高次情報通信に関するこれまでの研究成果を基盤とし、人間性豊かなコミュニケーションを実現する総合的科学技術の学理と応用を研究する中枢としての役割を果たすことを宣言しました。また、社会構造の変化に応えるべく、2002年(平成14年)4月には、産学連携による新情報通信産業の創生を目指した 3 研究部からなる「附属二十一世紀情報通信研究開発センター」が省令施設として設置されました。
 2009年(平成21年)には大学の附置研究所・センターの制度は大きく変わり、これまでの全国共同利用研究所が廃止され共同利用・共同研究拠点制度となり、2010年(平成22年)4 月には共同利用・共同研究拠点協議会が発足しました。この拠点には、施設利用だけでなく研究者コミュニティの強い要望のもとに共同研究を展開することが求められています。本研究所が1994年の全国共同利用研究所への転換の際に目指したものは、広く国内外から研究者を集めて共同プロジェクト研究を推進する共同研究型研究所となることであり、それは、拠点制度の主旨を実質的に先取りしたものであります。これらの実績が認められて、本研究所は2010年に「共同利用・共同研究拠点」に認定され、2013年の拠点活動に対する中間評価及び2015年の期末評価では、最高ランクの評価を与えられました。

4 飛躍 ─世界の COE として─

 来るべき次世代のグローバル・ユビキタス情報通信時代において本研究所の理念・目標を実現するべく、今日ではそれにふさわしい研究体制が整備されています。平成16年度に、研究分野の軸に加え、研究の進展に伴う時間軸をも考慮した改組が行われました。短期、中期、長期の研究に大きく分け、研究の進展によって流動的に組織を変更できる柔軟性を導入しました。短期の研究は、電気通信研究所の優れた研究成果を産学連携で5年程度の期間で実用化に結びつける「二十一世紀情報通信研究開発センター」が中心となって担っています。また、10年程度の中期的スパンの研究を担う研究組織として、ナノテクノロジーに基づいた材料・デバイス技術の研究を総合的・集中的に推進する「ナノ・スピン実験施設」と、現在の情報技術の壁を打ち破る知的集積システムの構築を目指す「ブレインウェア実験施設」を設置し、次の実用化に結びつく基盤的研究を行っています。「ナノ・スピン実験施設」の研究を推進するために、平成16年3月には最新の設備を備えた「ナノ・スピン総合研究棟」が完成しています。
 長期的な研究を行う研究部門として、4研究部門に再編成しました。大量の情報を高速にしかも正確に送信するための科学技術を開発してきた物性機能デバイス研究部門、コヒーレントウェーブ工学研究部門は伝統的に本研究所が得意とする分野で、これらの部門を「情報デバイス研究部門」と「ブロードバンド工学研究部門」にそれぞれ編成替えをしました。また人間と環境が調和した高度な情報社会を築くために、人間の情報処理過程の解明を目指す「人間情報システム研究部門」と、情報社会を支える情報通信システムの高度化、高次化のために、ソフトウェアやシステム技術の進展を目指す「システム・ソフトウェア研究部門」を設置しました。
 平成16年度の改組以降も、平成21年度には最先端研究開発支援プログラムを推進するために「省エネルギー・スピントロニクス集積化システム研究センター」を、平成23年度には、東北大学災害復興新生研究機構で進められている8プロジェクトの一つとして、災害に強い情報通信ネットワークの構築のための研究開発を推進する「電気通信研究機構」を本研究所が中心となって設立しました。さらに平成25年度の、企業との共同研究を着実に実施する組織として設立した「国際集積エレクトロニクス研究開発センター」にも、本研究所教員が貢献しています。平成28年度には情報の質をも取り扱うための文理融合プロジェクト「ヨッタインフォマティクス研究センター」が本学の学際研究重点拠点として認定され活動を開始し、平成30年度には学内共同教育研究施設等として新たに設置されました。また、平成29年に指定国立大学として東北大学が認められた際の4つの研究の柱のひとつであるスピントロニクスは通研を中心として遂行されたものであり、「スピントロニクス研究センター」「スピントロニクス国際共同大学院」「スピントロニクス学術連携研究教育センター」の設立と運営に深くかかわっています。
 本研究所は、現在大学院工学研究科(電気エネルギーシステム専攻、通信工学専攻、電子工学専攻)、情報科学研究科、および医工学研究科との間で、研究・教育の両面において緊密な協力体制を取っています。同時に国内のみならず世界中の研究者を迎え、世界におけるCOEとして電気通信に関する広範な分野で積極的な研究活動を行うことも期待されています。平成26 年11月には、延べ床面積13,513平米の新棟が竣工し、平成27年6月23日には、電気通信研究所 80 周年記念と合わせて開所式を開催しました。我々の誇りとするこれまでの諸先輩・同僚の実績を基礎に、情報通信技術の急速な発展とグローバリゼーションのうねりの中で、さらなる飛躍を図る新たな時代を迎えています。