「人間性豊かなコミュニケーションの実現」

電気通信研究所 所長
石山 和志
電気通信研究所のミッションは「人間性豊かなコミュニケーションの実現」です。コミュニケーションは人間が社会を構成するための極めて重要な要素です。本所が研究開発を遂行している情報通信技術は、その歴史の中でコミュニケーションのあり方を大きく変え、その速度や量、質においても人間の限界を超えた情報交換を可能にしてきました。現代におけるコミュニケーション(情報通信)は、「人と人」から「人とモノ」、「モノとモノ」へとその形態を広げ、また空間的かつ時間的な限界を拡張し、多様性への展開も続けています。本所の活動は、さらにその先にある豊かな情報社会の実現を目指し、我が国の学術と社会の繁栄に資すると共に広く人類社会の福祉に貢献することを目的としています。
一方、研究力強化へ向けた資源の確保などに関して、大学はこれまでとは異なる様々な対応が必要な環境にあります。2024年に本学はわが国唯一の国際卓越研究大学として認定され、運営予算が増額されますが、それと同時に社会に対する責任もこれまで以上に重くなります。これは大学に対する社会からの期待であり、大学の機能強化や多くの研究成果が求められます。そのような状況下においても、本所の研究活動の力点が、よりよい情報社会の構築を目指し、迅速に解決が望まれる社会課題への対応と、将来の応用展開を見据えた基礎研究の推進にあることは変わりありません。これまで時代に先駆けた情報通信の新しい世界を開き、新産業創成につながる基盤技術の創造と産学連携による実用化、それらを通じた教育と人材育成を強力に進めてまいりました。今後も情報通信そのものを変革するような大学らしいイノベーションで時代を切り拓くための努力を続け、人間性豊かなコミュニケーションの実現を通じて、人類社会の福祉に貢献する所存です。
本所は1935年の設置以来、磁気記録や半導体、光通信をはじめとした現代の情報通信の基盤をなす研究成果を挙げ、世界をリードしてきました。これらの実績の上に、情報通信分野での研究拠点として活動を継続し、現在に至るまで豊かな情報社会を作るために研究成果を積み上げています。研究推進のために、材料、デバイス、通信方式、ネットワーク、コンピューティング、人間情報、ソフトウェアなど広く関連研究分野に研究室を配し、ハードウェア技術とソフトウェア技術の融合、他機関との連携による文理連携、産学連携など、研究者間の有機的連携も実現できる体制を組織しています。2023年4月の改組により、3つの研究部門、2つの附属施設と2つのセンターからなる体制としました。研究部門は長期的な視点による研究を、施設は研究成果の社会実装を目的として中期的成果を目指す研究を、センターは所内外の研究者と連携して産学連携による実用化を推進する短期的な研究を受け持っています。研究部門として「計算システム基盤研究部門」、「情報通信基盤研究部門」、「人間・生体情報システム研究部門」の3つの部門を設定し、それぞれの研究領域を「超計算力の獲得」、「空気のような情報インフラの構築」、「人間理解に基づく超知的システムの創出」としました。2つの施設は、ナノテクノロジーに基づいた材料(スピントロニクスなど)・デバイス技術の研究を総合的かつ集中的に推進する「ナノ・スピン実験施設」と、現在の情報処理能力における技術的障壁(電力消費の壁や演算処理能力の壁など)を打ち破る知的集積システムの構築を目指す「ブレインウェア研究開発施設」です。2つのセンターは「二十一世紀情報通信研究開発センター(IT21センター)」と、2023年4月よりスタートした「サイバー&リアルICT学際融合研究センター」です。このセンターは、人間性豊かなコミュニケーションの本質を探索・構築する目的で、国からの特別経費の支援を受けて設置されました。
本所は、2010年度に文部科学省から情報通信共同研究拠点として共同利用・共同研究拠点の認定を受け、国内外の情報通信、コミュニケーション科学技術研究を推進する研究者コミュニティーを牽引する役割を担っています。そのための活動として、外部の研究者と進める共同プロジェクト研究を実施しています。国公私立大学や民間の企業などの研究者との連携を推進するこの事業は多くの成果に繋がり、2022年度からは第4期中期目標期間の事業を推進しています。この事業は、時代の要請にあわせて常に制度を改善し、現在は国際化、若手支援、産学連携に対して重点支援を実施しています。その効果もあり、ここ数年にわたり参画者が増加しており、2024年度も130件あまりのプロジェクトを採択しました。産業界との連携、国際的な展開や若手が中心となるプロジェクトも含め、さらに発展させてゆきます。
本所のこれまでの研究成果の一部は、その重要性から新たな学内組織の設立に繋がっています。例えば、本所の教員が中心となり進めてきたスピントロニクス研究は、2017年に東北大学が指定国立大学として認定された際の将来構想の中で、4つの世界トップレベル研究拠点のひとつとして位置づけられ、先端研究を遂行する「先端スピントロニクス研究開発センター」(CSIS)、産学連携コンソーシアム構築を目指す「国際集積エレクトロニクス研究開発センター」、国際的人材の育成を目指す「スピントロニクス国際共同大学院」、国内共同研究の促進を担う「スピントロニクス学術連携研究教育センター」(CSRN)が設置され、2022年度からはCSRNがCSISの新たな一部門として統合されました。
災害を見据えた情報通信に関して2011年10月に、本所の主導により「電気通信研究機構」が設置されました。東北大学災害復興新生研究機構で進められた8大プロジェクトの一つとして、災害に強い情報通信技術を構築する研究開発が産学官連携の下に推進され、2022年度から災害科学国際研究所の下で災害科学と情報通信の融合を指向して展開しています。
また2016年度には、情報の質をも取り扱うための文理融合プロジェクト「ヨッタインフォマティクス研究センター」が本学の学際研究重点拠点として認定され活動を開始し、2024年度から新しい研究センター「総合知インフォマティクス研究センター」としてリニューアルしました。
現在改築事業を進めている旧2号館は2025年10月末竣工予定です。この新しい建物は、オープンイノベーションスペースなど新しいコンセプトを持つ空間を設けており、これを最大限に活用して引き続き産学連携の強化を力強く推進していく計画です。
電気通信研究所は2025年に創立90周年を迎えます。所員一同、新しいコミュニケーション・パラダイムの構築へ向け更なる発展を目指していく所存です。皆様のご指導とご鞭撻を引き続きどうぞよろしくお願い致します。