Research Institute of Electrical Communication Director Prof.Hideo Ohno  (RIEC) 電気通信研究所 所長
大 野 英 男

   電気通信研究所は1935年の設置以来、磁気記録や半導体・光通信をはじめとした現代の情報通信の基盤をなす研究成果を挙げ、世界をリードしてきました。私たちはこの伝統の上に、社会的要請を先取りした、人間性豊かなコミュニケーションを実現する総合的科学技術の学理と応用に関する研究を展開しています。
 32年前、本所50周年記念講演会の際に当時の西澤潤一所長が「学問というものはまだ名前がつかないうちに始めるようでなければいけない」と挨拶しました。成果が種々の指標で評価されがちな今日でも、この視点は私たちの活動の基礎をなしています。大学の研究に求められるのは、新たな学問や有用な技術を創成することである、これを常に念頭に研究開発と人材育成を行っています。
 現代社会において、情報通信は、人間と人間、機械と機械、そして人間と機械の間で絶え間なく行われ、私たちを取り巻くあらゆる社会活動の基盤となっています。最近では、モノとモノとをインターネットでつなぎ(IoT)、大量の情報を収集して(ビッグデータ)、人工知能を活用し分析処理し、エネルギーや食糧など、効率良く社会や産業を運営しようとする動きが加速度的に進んでいます。
 私たちは、新たな領域を創成する基礎・基盤的な研究と同時に、現在の社会的要請に応える研究も並行して進めています。特に(1)省エネルギーで高速・大容量の情報処理と通信、(2)東日本大震災で必要性が明確になった、高度の耐災害性をもつ次世代情報通信、(3)膨大なデータや時々刻々と変化する実世界を対象に、自ら学習し意味を見出して知として結実させる高次の情報処理やコミュニケーションの実現、の研究を精力的に進めています。
 本所は、4つの研究部門、2つの施設と1つのセンターを組織し、材料と情報の基礎科学から、情報を生成・認識・伝送・蓄積・処理・制御するためのデバイス、回路、アーキテクチャー、ソフトウェアまでを一体のシステムとしてとらえ、これらの研究を所内外の研究者との有機的連携のもとに総合的に進める体制としています。連携に関しては、文部科学省から情報通信共同研究拠点として共同利用・共同研究拠点の認定を受け、外部の研究者と進める共同プロジェクト研究を進めています。わが国の大学に横の連携をもたらすこの事業は、皆様に活用頂いた結果、第2期の最終評価で最高の評価を受けて認定が更新され、昨年度から6年間の第3期が開始されました。本年度も100を超えるプロジェクトと1200名を超える方々の参画をいただき、産業界との連携、国際的な展開や若手が中心となるタイプも含めて、一層の発展が期待されます。
 本所では、国際的な研究活動を推進し、多様な人材を求めかつ育成して、これまでの研究開発をさらに発展させることを目的に、5年間のアクションプランを2013年度に策定しました。本年度はその最終年度です。プランを精力的に進めた結果、2016年度に後述の2センターが設置されたほか、国際化も進んで外国人教員は全教員の1割にまで増加しました。また、女性教員の雇用や若手研究者の海外派遣も進んでいます。
 所はこのほか、2014年度から国の特別経費の支援により「人間的判断の実現に向けた新概念脳型LSI創出事業」の研究を進めています。この事業により、実世界を相手にする人工知能などの高次の情報処理をLSIとして具現化します。
 さらに、所を中核とした研究開発プロジェクトを学内外で展開しています。2010年3月には本所の教員が中心となった「省エネルギー・スピントロニクス集積化システムセンター」が総長裁定により設置されました。現在、世界をリードする省エネルギー論理集積回路の研究開発が、内閣府ImPACTの支援を受け、本学国際集積エレクトロニクス研究開発センターと連携した産学官体制で進められています。2011年10月には、東日本大震災を受けて、やはり本所の主導により「電気通信研究機構」が総長裁定により設置されました。東北大学災害復興新生研究機構で進められている8大プロジェクトの一つとして、災害に強い情報通信技術を構築する研究開発が産学官連携の下に推進されています。2016年度には情報の質をも取り扱うための文理融合プロジェクト「ヨッタインフォマティクス研究センター」が本学の学際研究重点拠点として認定され活動を開始しました。また、本所の共同プロジェクト研究が実を結び、4大学(東北大学、東京大学、大阪大学、慶應義塾大学)を拠点とする大学間連携事業が概算要求で認められ、全学組織「スピントロニクス学術連携研究教育センター」が2016年度に設置され活動を開始しています。
 電気通信研究所は、このように時代の要請に真摯に応えると共に、時代に先駆けた情報通信の新しい世界を開き、新産業創成につながる基盤技術の創造と産学連携による実用化、それらを通じた教育と人材育成を強力に進めています。いまある情報通信技術を課題解決に応用するだけでなく、情報通信そのものを変革していく、そのような大学らしい、学問に根差したイノベーションで時代を切り拓くための努力を続け、人間性豊かなコミュニケーションの実現を通じて、社会の質(Quality of Society、岩崎俊一名誉教授提唱)の向上に今後とも貢献して参ります。
 皆様のご指導とご鞭撻をどうぞよろしくお願い致します。