Research Institute of Electrical Communication Director Prof.Hideo Ohno  (RIEC) 電気通信研究所 所長
大 野 英 男

    本研究所が対象とする分野は情報通信、すなわちコミュニケーションです。コミュニケーションは、身近な人との意思疎通から文藝や学術、ビジネスにおける交渉、さらには私たちの産業や、社会の安全・安心を支えるシステムまで、ありとあらゆる社会活動の基盤となっています。近年では、モノとモノとをインターネットでつなぎ、情報を収集分析処理して、エネルギーや食糧なども含めた産業や社会を運営しようとする動きが加速度的に進んでいます。これらのことから、第一に、より高速・大容量の情報通信を省エネルギーで実現することが課題となっています。第二に、社会基盤となった情報通信には高度の耐災害性が要求されることが東日本大震災で明確になりました。第三に、蓄えられた膨大なデータや時々刻々と変化する実世界を相手に、自ら学習し意味を見出して知として結実させる、いわば情報の質をも取り扱う高次の情報処理やコミュニケーションの実現、加えてそれを可能とするハードウェア技術の開発も必要です。さらに、種々の社会課題をどのようにこれらの技術で解決していくかも問われています。

    電気通信研究所は 1935 年の設置以来、アンテナ、磁気記録、半導体・光通信をはじめとし、現代の情報通信の基盤となる多くの研究成果を先駆けて挙げ、世界をリードする活動を続けてきました。私たちはこの伝統の基盤の上に、上記の社会的要請を先取りした、人間性豊かなコミュニケーションを実現する総合的科学技術の学理と応用に関する研究を展開しています。本要覧はその研究の一端を皆様に見て頂きたく編纂しました。

    昨年度は創立 80 周年と本館の竣工を祝う会を 6 月に催しました。その会で、本所 50 周年記念の際に当時の西澤潤一所長が「学問というものはまだ名前がつかないうちに始めるようでなければいけない」と挨拶されたことをご紹介しました。これは学術的成果が種々の指標で評価されるようになった今日でも、極めて重要な視点であり、今も私たちの活動の基礎をなしています。大学の研究でもっとも尊敬されるのは、新たな学問や有用な技術を創成することである、私たちはこのことを肝に銘じて研究開発と教育を行っています。

    所では、材料と情報の基礎科学から、情報を生成・認識・伝送・蓄積・処理・制御するためのデバイス、回路、アーキテクチャー、ソフトウェアまでを一体のシステムとしてとらえ、これらの研究を所内外の研究者との有機的連携のもとに総合的に進めています。このため、4 つの研究部門、2 つの施設と 1 つのセンターを組織しています。また、文部科学省から情報通信共同研究拠点として、共同利用・共同研究拠点の認定を受け、外部の研究者との共同プロジェクト研究を進めています。この事業は、皆様のご支援とご利用により、第 2 期の最終評価で高い評価を受けて認定が更新され、本年度から 6 年間の第 3 期が開始されました。産業界との連携、国際的な展開や若手が中心となる共同プロジェクト研究も含めて一層の推進を図って参ります。

    所はこのほか、2014 年度から国の特別経費の支援を受け「人間的判断の実現に向けた新概念脳型 LSI 創出事業」を推進しています。実世界を相手にすることのできる人工知能などの高次の情報処理を LSI として具現化していきます。

    さらに、所を中核とした研究開発プロジェクトを学内で展開しています。2010 年 3 月には電気通信研究所の教員が中心となった「省エネルギー・スピントロニクス集積化システムセンター」が総長裁定により設置されました。世界をリードする省エネルギー論理集積回路の研究開発が、内閣府 ImPACT の支援を受け、本学国際集積エレクトロニクス研究開発センターと連携して産学官体制で進められています。2011 年 10 月には、東日本大震災を受けて、本所の主導により「電気通信研究機構」が同じく総長裁定により設置されました。東北大学災害復興新生研究機構で進められている 8 大プロジェクトの一つとして、災害に強い情報通信技術を構築する研究開発が産学官連携の下に推進されています。さらに 2016 年度には情報の質をも取り扱うための文理融合プロジェクト「ヨッタインフォマティクス研究センター」が本学の学際研究重点拠点として認定され、また東京大学、大阪大学、慶応義塾大学との連携を基盤とした、スピントロニクス学術連携研究教育センターが概算要求で認められ、それぞれ活動を開始しています。

    2013 年度に策定した 5 年間のアクションプランでは、国際的な研究活動を推進し、多様な人材を求めかつ育成して、これまでの研究開発を一層発展させることを宣言しました。現在このプランを着実に進めており、例えば外国人教員は全教員の 10 %にまで増加しました。加えて、社会が要請するイノベーションの源泉となるため、文科系の学問をも巻き込んだ研究開発をさらに進めます。特に、今ある情報通信技術を課題解決に応用すると共に、情報通信そのものを変革していくことが重要と考えています。大学らしい、学問に根差したイノベーションで時代を切り拓くための努力を今後も強力に続けて参ります。

    電気通信研究所は、このように時代の要請に真摯に応えると共に、時代に先駆けた情報通信の新しい世界を開き、新産業創成につながる基盤技術の創造と産学連携による実用化をすすめます。さらに、それらを通じた教育と人材育成を強力に進め、これからの社会の質(Quality of Society、岩崎俊一名誉教授提唱)の向上に貢献して参ります。皆様のご指導ご鞭撻をどうぞよろしくお願い致します。