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中沢正隆教授は2006年度ノーベル賞受賞者発表に先立ち,今年度または近い将来 ノーベル物理学賞受賞の可能性のある有力な候補者としてトムソンサイエンティ フィック栄誉賞を受賞しました


中沢正隆教授は2006年度ノーベル賞受賞者発表に先立ち,今年度または近い将来 ノーベル物理学賞受賞の可能性のある有力な候補者としてトムソンサイエンティ フィック栄誉賞を受賞

米トムソンサイエンティフィック(コネチカット州)は06年のノーベル賞の有力候補となる06年 トムソンサイエンティフィック栄誉賞の受賞者27人を発表しました.日本からは物理学賞に「世界中の高速光ファイバ通信ネットワークに革命をもたらしたエルビウム添加ファイバ増幅器の開発」でフランスと英国の研究者とともに中沢 正隆電気通信研究所教授が選出されました.

受賞者は物理学,化学,医学・生理学,経済学の4分野における学術論文の被引用数とインパクトの強い論文数などのデータから世界の科学の進歩に大きな影響力を発揮したと認められた科学者です.02年から栄誉賞を発表しており,これまでに予想した27人中4人がノーベル賞を受賞しており,的中率は約7分の1といわれています.

詳細は下記URLをご覧下さい.

研究内容

中沢教授は波長1.48µm InGaAsP半導体レーザを励起光源とすることにより,小型・高信頼のエルビウム添加光ファイバ 増幅器(EDFA:Erbium-doped Fiber Amplifier)を世界で初めて実現し,さらにそれを利用して光伝送技術の構築に大きく貢献してきています. 今日のテラビット波長多重光通信(WDM)はこのEDFAにより実現されており,光産業をここまで大きくした革新的な研究といえます.また, 中沢教授はEDFA開発後,それを光中継器としたソリトン伝送方式を提案し,実現が難しいとされていた実用的なソリトン伝送が可能であること を世界に先駆けて実証しており,その業績も高く評価されています.さらにEDFAを応用して,10~40 GHzの繰り返しで超短パルスを発生するレー ザを研究開発すると共に,それを用いて1.28 Tbit/sという最高速のOTDM(超短光パルスによる光時分割多重方式)伝送にも成功しています. これらの成果は光通信の発展の礎として高く評価されるとともに,次世代光通信の構築のための基盤技術として幅広く利用されています.

小型エルビウム添加光ファイバ増幅器(EDFA)とは?

光ファイバにネオジム(Nd)やエルビウム(Er)などの希土類元素を添加すると光増幅が可能であることは1960年代から知られて いました.しかし光通信に用いることができるような小型装置は実現しておらず,単に光学定盤上で色々な波長の光増幅が出来るという報告が 主でありました.中沢教授は1989年に波長1.48µm半導体レーザを励起光源として,高利得かつ低雑音のエルビウム光ファイバ増幅器(EDFA)が 実現できることを世界で初めて実証しました.当時研究を進めていた光ファイバ中の誘導ラマン散乱を用いたラマン増幅用半導体レーザ光源 (波長1.48µm InGaAsPレーザ)がエルビウムイオンによる光増幅に利用できることを見抜いた点が非常に大きなブレイクスルーとなりました. 具体的には,半導体レーザが高出力かつ波長範囲の広い多モード発振であるため,エルビウムイオンを効率的に励起できるであろうこと, またビーム形状が円形であるので効率的に光ファイバにエネルギを注入できるであろうことを考察し,エルビウム光増幅の実験を行いました. その結果,最初の実験で12.5 dBの利得を得ることができ,その後40 dB程度にまで利得を向上させることに成功しています.1.48µm InGaAsP 半導体レーザの信頼性は大変高く,これにより世界で初めて通信用光増幅器を実用化するとともに,新たな光通信技術の突破口となりました.

その後直ちに各国でこの光増幅器を用いた伝送実験が行なわれ,光伝送システムとして優れた特性を得られることが数多く報告され ました.その結果,このEDFAは中継間隔の拡大・高速システムへのビットフリー対応・光中継器の小型高性能化・波長多重光伝送の実現など,従来の 光通信の歴史を数多く塗り替え,光通信技術を一挙に革新していきました.そして,今日のIT産業の基本となる陸上および海底の大規模光システムを 実現するとともに,FTTH(Fiber To The Home)のための光アクセス技術にも幅広く利用されています